いい素材も活かす心技があってこそ

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軽やかに厨房を行き交う料理人たち。それぞれの仕事に集中しながらも、常に目の端に互いをとらえ、ぶつかることなく身をかわす。阿吽の呼吸のチームワーク。和やかな空気のなかに一本の緊張の糸があり、料理への期待を増幅させる。日本のうまいものを集め、創作性の高い和食に仕立て、幅広い年代に支持されているこの人気店で、茨城の食材はどこまでチームに貢献できているのだろうか。

大胆な発想に繊細な配慮
1ミリ差で異なる味わいの奥深さ

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ー豊富な種類のお料理と臨場感溢れる調理の現場の雰囲気に、お客様はわくわくですね。まずはお店の方針についてお聞かせください。

松川さん  おかげさまで幅広い年代のお客さまにご利用いただいていますので、豊富なメニューをご用意しています。週末にはご家族連れも多いので、デザートも常に7、8種類は用意しているでしょうか。調理場は皆さんから見えるここが全て。狭いなかで、基本的に作り置きをしないようにしているので、オーダーをいただくたびに一から作るので結構たいへんなんです。夜の営業は特に忙しく、スタッフは皆めちゃくちゃに動いてますよ。オープンキッチンは立ち居振る舞いや仕事のきれいさなどにも気を使いますのでプレッシャーもありますが、その分鍛えられていると思います。また、その日仕入れたものによってご提供できる料理が変わりますので、グランドメニューとは別に、毎日両面手書きのメニューを1枚作ってご紹介しています。先ほど自分が料理してるときにご覧になってて、たぶんちょいちょい小首を傾げながらやってたと思うのですが(笑)、基本的に自分は料理の設計は作りながらやるんですね。その日の仕入れによって何を作るか、おおよそは決めますが、実際はオーダーをいただいてから手順を考えています。リクエストがあればメニューにないものでもできるだけお応えし、その場にある素材とお客様のご要望に応じて、即興的に作ることが多いです。例えば日頃よく使う魚があったとして、その身質はいつも同じ状態ではありませんから、脂ののりが良い時は濃厚なたれを合せようとか、逆に脂が少なければ薄切りにして刺身っぽくしようとか、酒蒸しにしようとか。要は食材ありきです。自分の信条は、良い食材を使い、それをいじくり倒さないこと。和食をある程度やってくると、どうしても自分の技術を誇示したくなって手を掛けすぎてしまうのですが、でもそれは本当にお客様の利益になることなのだろうかと。そうではなく、例えば付け合わせの野菜ひとつにしても、オーダーが通ってからさっと茹でて、うすく塩をして、ほの温かい感じでお出しする。その方が自分の中ではよほど価値があることと思っています。

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ー茨城産のローズポークについてうかがいます。素材ありきというお考えの元で豚肉はローズポークを選んでいただいていますが、料理人からご覧になってどんなお肉でしょうか。

松川さん  ローズポークの良さは、まず臭みが少ないこと。そして身質が柔らかいことですね。今日のローストポークは塩をすり込んで2日間寝かせ、その後やわらかくするためにパイナップルジュースに一晩漬け込んでからオーブンで焼いています。肉質そのものがストレートに出る料理ですが、ローズポークの特徴が生かされていると思います。おいしさを感じるのは味だけでなく、食べておいしい厚みや大きさというものがあると思いますので、肉を切り分けるときにはそのことを特に意識しています。豚肉を使った定番のメニューには、しゃぶしゃぶ、厚切り豚のヒレカツサンド、肩ロース西京焼などがあり、こちらもローズポークでお楽しみいただいています。ローズポークという名前の響きも良いですね。コストパフォーマンスの点でも満足しています。

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「ローストポークねぎソース添え」(1600円)パイナップルの酵素で柔らかく仕上げたローズポークのローストに、とろとろに炊いたねぎのソースを添えて。ソースはほんの少しのバターと、とろみ付けにジャガイモを使用。塩気のあるローストポークを、やさしくコクのあるソースが引き立てている。

ー茨城県の産地ツアーにご参加いただいたり、食のイベントにもよくご協力いただいているとのこと。そこから何か得るものはありましたか?

松川さん  生産の現場を知ることは、確実に仕事に反映されると思います。れんこんを始め、さまざまな良質な食材を知ることもできました。日頃うちの子たちに言っているのは、当たり前のことですが、食べ物をだいじにしろと。意外とそういうことが希薄になっているお店があると思うんですね。しかしまずは食材があって、そこに技術という付加価値をつけてお客様に喜んでいただき、お代をいただく。自分たちの仕事はそれで成り立っている。それを忘れるなと。日本料理とはいえ、うちでは野菜の面取りはせず、レンコンもニンジンも皮ごと使います。皮ごと食べた方が間違いなくおいしいと思いますし、皮が硬いなら硬くないように調理すればいい。要らないから捨てるのではなく、どうすればより美味しく食べられるかを考えます。実際、仕事以外にイベントに参加するのはたいへんで、みんな無理してやってくれていると思います。ただ、たいへんなことも通り過ぎてしまえば経験になり、後々自分の身になっていくことですから。ゆくゆくは定休日で空いている店を食のイベントで使っていただくなど、何か新しい展開ができればいいなという考えもあって、茨城県のイベントのお手伝いなどには積極的に参加しているところです。

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全国的に評価を受けているローズポーク
より多くの方に食べてもらうために

ーまず、ローズポークの特徴について教えてください。

鈴木さん  ローズポークは茨城県の系統豚が素になっており、遺伝的に固定化した豚です。系統豚とは特定の種を交配し、6世代6年をかけて優良な個体の選抜を繰り返した、食用として高い能力を保有した豚のことで、そこから生まれたものだけがローズポークとなるのです。40年以上も歴史のある銘柄豚は、全国的にも稀な存在です。育てる人や与える飼料も決められており、確固たる規定の元に作られた、安全でおいしいお肉です。味の特徴はまず脂がしつこくないということ。癖がなくて食べやすい肉だと思います。2013年4月には、過去10回の銘柄ポークコンテスト最優秀賞の中からグランドチャンピオンを選定する大会で3位になり、多くの方に認められています。

 

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ー生産においての苦労などありますか。

鈴木さん  私の家は元々タバコを作っていたのですが、40年以上前、自分が10代の時に父親を亡くし、母と2人でできることとして畜産に転向したのです。地域の先輩方にアドバイスをもらって試行錯誤しながら、うまく出来るようになるにはしばらくかかりました。ローズポークが県の認定を受けたのは30年前。その頃から共励会に出品するようになりましたが、生体で見てこれは良い出来だと思っても、肉の審査は枝肉(解体後)で行いますので、体重や脂のノリなど、予想したのと違う結果だったり、難しいところがあります。でも養豚は手をかければかけただけ、手応えのある仕事。命あるものが相手ですから、物理的なことだけでなく、気持ちを安定させることもたいせつです。良いコミュニケーションをとるために、たとえば豚舎に入る時は驚かせないように必ず「オーイオーイ」と声をかけて入ります。すると豚の方も安心して「オ、オ、オ」と応えてくれる。彼らの手の届かない目の脇や耳の裏、耳の中など、触れてやったり掻いてやったりすると気持ち良さそうにしています。すると私自身も気持ちが良いのです。

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ーそうした日々の思いから発せられる生産者の皆さんの声が、直接消費者に届くと販売促進にもなりそうですね。

鈴木さん  そうですね、うちは息子がこの仕事に就いて7、8年になるのですが、それまでは全く違う仕事をしていたので、私とは異なる視点を持っています。最近よく将来のことを話すのですが、国際的に販路拡大の希望もあるようです。現在34の農家で年間4万頭弱を生産しており、今後もその量を維持していきたいと思っていますので、そのためにも、私たちが厳密に条件を守って作った安全でおいしいローズポークを、更においしく提供してくださる料理店さんとのお取り引きなど、積極的に広げていきたいと思っています。

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五丁目千きいろ 料理長 松川太一さん

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鳥取出身、37歳。関西、横浜、東京で和食一筋に修行し、現在は五丁目千きいろの料理長として、5人の調理師を束ねている。食材を仕入れる際にブランドや産地といった肩書きにはこだわらず、目を惹かれたものはまずは使ってみるという主義。そうして自分の舌で選んだ食材を使用した創作性の高い和食が、本格的な味をカジュアルに楽しめる店として人気を集めている

鈴木養豚場 鈴木光一さん

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茨城県銘柄豚振興会理事、ローズポーク指定生産者連絡会会長。ローズポークを使用しているレストラン一覧表を参考に食事に行くこともあり、「脂身は確かにうまい」と感じるそうです