ハーブの持つ可能性を、調理人が引き出す

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ハーブ類は、一般的な野菜と比べて産地やつくり手の情報が少ない。そんななか、全国から指名されるハーブと野菜の農園がある。取手市のシモタファームだ。ハーブは、自身が持つ香りの存在それだけで勝負ができそうだが、手を加えることで、香りや味、効果も本領を発揮するものだ。シモタファームのハーブに魅せられた一人が、HATAKE AOYAMAの神保シェフ。個性の強いシモタファームのハーブの力を引き出すことができるのは、調理人の腕の見せ所だ。

茨城の人の舌を肥えさせたい
「地元がおいしい」という意識をもっと

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ー神保さんは日立市出身だそうですね。茨城という土地や素材を、外から眺めるとどのように感じますか。

神保さん  お店では茨城県の素材は多く使っています。郷里だからという理由以前に、多品目が栽培できる土壌であること、配送のルートがしっかりとしていることなど、いい面が多くあります。取手市のシモタファームのハーブ類、水戸市のTedyのパプリカなど、生産者を指名して使うものもありますが、信頼のおける問屋さんにお任せして茨城県産という大きなくくりで手配をお願いしているものも多くあります。多品目で、なおかつ大量の野菜が育つ野菜王国ですが、肝心の茨城県民が「地元がおいしい」という意識を持っている人が多くないように感じます。せっかく、おいしくて新鮮なものが周りにあふれているのに、その価値に気付いていない。とてももったいないと思いますね。茨城県の素材は、まずは自分たちがその価値を認め、消費する。そして茨城県の人たちの舌を肥えさせる。一度きっかけをつくってしまえば、その後は根強いですよ。そのきっかけづくりのお手伝いができればと思っています。そして食べ手の舌の価値観が底上げされれば、野菜の作り手のレベルもさらに上がり、さらにいい素材が多い土地になると思うのです。

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ー昨年の東日本大震災以降、より郷土への想いが増したと聞きました。今、そして今後やりたいことも教えてください。

神保さん  今までは、他県のプロモーションに携わることが多かったんです。それまでは特に何も思わなかったのですが、震災を境に「何で自分の出身地である茨城のことを何もやっていないんだろう」という疑問を抱き、今何か県のためにしなければという想いが強くなりました。おいしいだけではいけない、きちんと安全・安心の情報開示、伝達を行ったうえで、応援をしなければなりません。お店でも、お客様から聞かれたときに応えられるよう、常に情報を入れるようにしています。今はこうして茨城の素材を東京の人に知ってもらうことが常ですが、ゆくゆくは茨城に帰り、郷里での活動を視野に入れています。その時にやりたいことはたくさんありますよ。そのひとつが、新しい郷土食をつくること。茨城県って郷土食が少ないんです。海のもの山のもの、素材が豊かな土地だからこそできる郷土食、作りたいですね。

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取手の地から日本全国へ
日本のハーブ栽培の原点

ーハーブの栽培を始めた当初は、日本ではまだ珍しい存在だったそうですね。なぜハーブだったのでしょうか。

霜多さん  きっかけはフランスに行ったことですね。40年ぐらい前になりますが、フランスを訪れたときに知った現地の料理に使われるハーブの存在、多様さに驚いたのですね。当時、日本ではほとんど栽培されていなかったと思いますが、食の欧米化も進んでいたし、これから需要があるだろうと直感で思ったんですよ。イギリスでもレストランの厨房を覗かせてもらったのですが、例えばローストビーフは調理の際はふんだんにハーブを使います。フランスやイギリスで目の当たりにしたハーブの力に、底知れぬものを感じて、自分でも栽培しようと思ったのですね。でも、もちろん最初から西洋のハーブ一本でいくのはリスクもあります。最初はミョウガなどから始めて、徐々にハーブの種類が増えていった感じですね。色々なレストランのシェフにも可愛がってもらっていて、そのシェフがヨーロッパに行った際に持ち帰ってきたハーブの種を「育ててみてよ」ともらったりもして、気づいたら130種類にも増えていました。

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ー「HATAKE AOYAMA」をはじめ、多くの飲食店からひいきにされていますね。

霜多さん  もうだいぶ前の話ですが、中国に行った際にチンゲンサイやタアサイの種子を持ち帰り、日本で栽培を始めたのは私と学生時代の先輩でした。チンゲンサイは、今でこそ茨城県内にも産地はありますが、当時は二人。自ら築地市場に売りに行き、市場内を走り回るうちにいろいろなシェフと知り合いになり、それが縁でたくさんのシェフに使っていただいています。首都圏だけではなく、東北地方や関西地方のシェフにまで。ありがたいですね。HATAKE AOYAMAの神保シェフも、彼が以前いたお店からの付き合いですよ。バジルをパスタのソースに、レモングラスをはじめとしたハーブをハーブティーとして使ってもらっています。バーニャカウダにうちのミニ野菜を使ってもらっていますが、ソースがおいしいんです。なるほど、うちの野菜は、こういう味に合うのかなどと勉強にもなります。

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ー今後やりたいと思っていることはありますか。

霜多さん  六次産業化とでも言うのでしょうか、自前の野菜とハーブを使ってピクルスを作っています。このピクルス自体は、だいぶ前から作っていましたが、本格的に販売をしたいと考えています。どの野菜とハーブをどれだけ使うか、これは分析の結果で、使っている素材がベストメンバーです。土壌や、野菜そのものに含まれる成分は日々、分析してデータを出して栽培に生かしているわけですが、加工品を作る際にも、この分析のワザを生かしていますよ。シモタファームという屋号でも、ひとたび利根川を越えれば“茨城県”というひとつの県として見られます。このピクルスを、茨城県を代表する六次産業の存在にさせたいと、ひそかに思っています。

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HATAKE AOYAMA 総料理長 神保佳永さん

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茨城県日立市出身。漁師の祖父、イタリアンシェフの父のもと、食経験豊かに育つ。国内のみならずフランスやイタリアに渡り、数々のグランメゾンで修業を積み、2010年に青山にHATAKE AOYAMAをオープンさせる。教師を目指していた過去もあり、東京都内の小学校に出向き神保流の食育活動を行うなど、料理人の枠にとどまらない活動を展開。今年9月には新宿伊勢丹に新たにカフェをオープン。

株式会社M&Yシモタファーム 代表 霜多増雄さん

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1945年生まれ。高校卒業後、農業の道へ入る。40年以上前にフランスに渡り、その地で見た欧州の農業や食文化に感化され、「日本でもこれからハーブの需要がある」と直感し、国内でいち早くハーブ栽培に着手する。現在は、インドネシアからの留学生を含む30人ほどのスタッフとともに、130種ものハーブのほか、野菜も栽培している。