待望の、旬。

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室町時代後期に京都で創業。1586年に即位した後陽成天皇のご在位中より現在に至るまで、綿々と御所の御用を勤める。日本を代表する和菓子屋虎屋の歴史は、和菓子の歴史そのものであり、和菓子に関する文献資料を数多く擁する。伝統を大切にし、時代に則した変化を厭わぬ先達。小田喜商店とは30年来の取引があり、栗を用いた生菓子には本県笠間産の栗が使用されている。

季節を映す雅な菓子に
人の思いをのせて

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ー虎屋さんにとっての原材料「栗」とはどのような存在ですか。

伊藤さん  栗の季節を私たちもとても楽しみにしています。むき栗や甘栗などは一年中ありますが、新栗ならではの香りと味はたまらないものがありますね。新栗の味を一度お知りになったお客様は、ひねのものの味ではもうご満足いただけないかもしれません。ですから私どもでは栗のお菓子には新栗だけを使わせていただいているのです。
しかし和菓子は季節を先取りするところがありますから、まずは8月の16日から末まで「ささ栗」というお菓子をお作りしています。煉切で作った2つの栗が、白あんを緑に染めたイガの中に座っているものです。これは栗を使用してはいませんが、新栗が出る以前からこうして秋に思いを寄せるのです。そして新栗が出ましたら、代表的なものとして「栗蒸羊羹」「栗鹿の子」「栗粉餅」、この3つの生菓子が出てまいります。虎屋のお菓子はだいたい3000種類程あるのですが、社員に聞いても、おそらくこの「栗粉餅」の人気が1番か2番ではないでしょうか。そのくらい人気のあるのが栗のお菓子です。

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ー今年は栗の収穫が少し遅れましたが、お客様にはどのように対応されたのでしょうか。あわせて、放射能の問題はどのようにお考えかお聞かせ下さい。

星野さん  当社では現在茨城と九州、二つの産地の栗を使用しています。栗の適性をみて、先ほど名前の出た生菓子の栗には茨城産を。棹物の「栗蒸羊羹」には茨城産と九州産を。「栗ごよみ」には九州産の栗を主に使用しています。8月に入ると社内の営業担当者から、今年の栗はいつ出るのかと度々聞かれていました。ところが九州産はほぼ平年通りに届いたのですが、茨城の栗はまとまった雨が降らなければ収穫ができないという状況でした。今年の栗を楽しみにしてくださっているお客様にはそのことをお伝えして、お待ちいただきました。待つしかないのです、途中で採るわけにもいきませんから。無理をして早くお作りしても、そのために品質を落としては本末転倒になってしまいますから。
放射能に関しては、残念なことに茨城の栗を使ったものは避けたいとおっしゃるお客様もいらっしゃいました。しかし検査基準に則ってきちんとしたものであれば、風評被害に惑わされず、虎屋はこれからも茨城の栗を堂々と使う、そのように考えています。

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ー以前小田喜商店さんにお話しを伺った際に、虎屋さんとの親交をこのようにおっしゃっています。

小田喜さん  虎屋さんの原材料を選ぶ目はとても厳しいものです。農産物のことを熟知したうえで、常に最高のものを仕入れていらっしゃる。長く御所の御用をお勤めされており、日本を代表する和菓子を作り続けているのですから、妥協というものが一切無いのです。30年前に初めて訪ねていらした品質管理部の小林さんが、虎屋さんが求める品質を示してくださり、小田喜さんの所ではこういう物が出来るのかと聞かれました。その要望に応えるために、必死で栗のことを勉強してきました。でも小林さんは私の仕事には高い要求を出すけれど、栗には無理を言わないんですよね。和菓子は季節を先取りするところがあるので、本当はもう今年の栗を待ってるお客様がいらっしゃるはずなのですが、栗が落ちてくるまではそのことをきちんと説明して待っていただくとおっしゃるのです。最高の味をお届けするには仕方がないと。今、私が人よりも少しは栗のことに詳しいのは、そして栗の本当の実力を伝えたいという強い思いがあるのは、虎屋さんに育てていただいたことも大きいのです。

toraya05笠間の栗を背景に小田喜氏(左)と「虎屋」品質管理部部長小林氏。食のプロとしてそれぞれの立場から原材料のたいせつさを語る。

ー日本を代表する老舗銘店と笠間の栗やさんの厚い信頼、これはとても稀なことではないかと印象的でした。

星野さん  確かに当社の小林と小田喜さんの間には私たちも入り込めないような絆がありまして、その礎があってこそ今の体制が築けたのかと思います。日本全国栗の種類はほぼ同じですが、問題になるのは産地の環境です。収穫後選果場に滞留させたりせず、なるべく速くユーザーに届ける仕組みと、当社の望む加工法を熟知して、適切に要望に合わせて届けていただけること。そこで必然的に産地が絞られていきます。小田喜さんの所は朝に昼に生産者さんが採れたての栗を直接持ち込み、迅速に処理をされています。また小田喜さんの場合は必ずしもこちらのマニュアル通りのいつも同じ加工の仕方ではなく、こうすればもっと美味しくなるというなかで、時間や温度などを微妙に加減をされている。そこに口を挟む必要はほとんど無いのです。既に信頼関係ができていますから。
当社では栗に限らず、主要な材料に関しては何度も現地に足を運びます。そして密に関わりながら原材料に関する情報を収集し、必要に応じて生産支援なども行います。それらの情報はイントラネットや広報からの発信で常に社員全員が共有し、誰もがお客様に説明できることを目指しています。

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ー最後に虎屋さんならではのお菓子作りの信条を教えてください。

伊藤さん  口に入れる物ですから、まずは衛生には非常に注意をはらっています。私も和菓子作りを30年経験し、作る側としては100、200、という単位でお作りしていますが、お客様が召し上がるのはその中の1つです。ですから100、200と同じものを作る時でも、1つ1つを大事に作ること。1つとして手を抜いてはいけないのです。そしてただ作るのではなく、和菓子の持っている背景や歴史、ものごとの道理をきちんと理解して作りなさいと、後進には指導しています。

星野さん 原材料に関しても、どのような環境のなかで皆さん苦労して作られているのか、ここへ届くまでの過程を理解してほしいと、社員研修ではよく話しをします。単純に材料として物が届くのではなく、そこには人の思いが宿っていると考えてほしい。それを使って加工する時には、加工する立場の思いも乗せて、営業に運ぶのだと。営業はまたそれをよく理解したうえでお客様にお伝えをする。ただ物をリレーするのではなく、美味しさと共に物語を伝えていく、そんな気持ちでおります。

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株式会社虎屋 経営企画部 広報課 担当部長 伊藤郁さん

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株式会社虎屋 資材部 担当課長 星野太郎さん

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